お陰様
絨毯の色でどれだけ長い時間悩んだであろう。
何日も掛けて絨毯の色なんてくだらない悩みに全神経を集中させていたこの頃、彼はまだ生きていた。
絨毯の悩みも消え、ド平日に茨城の鹿島神宮をぷらぷらして、御手洗の池で透き通る湧き水に感激してみたり、仕事そっちのけでパソコンのカードゲームに何時間も費やしたり、何とも平穏な日々を送っていた。
12日の夕食は、国分寺のビルの13階にある豆腐屋に招待されていた。
懐石料理とは言うものの、チェーン店の質の低さという弱みはどうにも隠しようがない感じであった。
接客は論外、食材はかぶってるし、盛り付けの陳腐さに苦笑い。ワインもそれしかないから仕方なく頼んだが、知っている人ならそれが「家でがぶ飲みワイン」であることくらい分かる。
救いは窓からの夜景であった。
散々ご馳走になっておいて文句を言うのもなんだが、料理の値段を聞いてもっと選びようがあっただろうにと思う。
そして、そんな我が儘な不満でイライラしたこの夜、彼が死んでいるのが見つかった。
内鍵をかけてひっそりと死んでいた。
彼の最後のまともな言葉は、「僕はルパンより次元が好きなんだ・・・」
であった。
あれから眠れない夜が続いている。夢の中で彼の影がちらついて何度も目が覚める。
相方には「気にし過ぎだろ!」と叱られたのでもう相談しないが、何となく振り払えないものを感じている。
だが、
お陰様で自分はこの世に生きている。くだらん日々でも、自然と心臓が活動し、勝手に呼吸して、どの意識が自分という人間を生かしているのかは全くもって不明だが、とにかく生きている。お陰様で。
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